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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)2414号 決定

原告

西良一郎

右訴訟代理人

島田信治

被告

株式会社中津組

右代表者

中津亨司

外二名

右被告ら三名訴訟代理人

佐藤融

被告

松山一重

右訴訟代理人

高橋徳

外三名

主文

本件を宇都宮地方裁判所に移送する。

理由

一原告の本訴請求の趣旨及び原因は別紙記載のとおりである。

二被告株式会社中津組(以下「被告中津組」という)及び被告中津千吉は請求の趣旨第一項の請求(以下「第一の請求」という)につき、同被告ら両名、被告中津亨司及び被告松山一重は請求の趣旨第二項の請求(以下「第二の請求」という)につき、いずれも管轄違いの抗弁を提出し、宇都宮地方裁判所に移送すべき旨の申立をし、原告はこれを争つている。

よつて案ずるに、第一の請求については、原告の主張する被告中津組及び被告中津千吉に対する債権は原告の現住所をもつて義務履行地とするものと解されるところ、原告の現住所は頭書のとおりであつて、当裁判所の管轄区域内にあるので、同請求につき当裁判所も管轄権を有することが明らかであり、右被告両名の管轄違いの抗弁は理由がない。

次に、第二の請求についてみるに、被告らが管轄違いとして主張する根拠は、被告らは、訴外鹿沼相互信用金庫との間で、同訴外金庫の所在地(栃木県鹿沼市)を管轄する裁判所をもつて専属的管轄裁判所とする旨の合意をしているところ、原告は代位弁済者として右合意の効力を承継したというのである。そして、証拠資料によると、訴外金庫と被告らとの間において、書面をもつて、訴外金庫が被告中津組(連帯保証人被告松山一重、同中津千吉、同中津亨司)との手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、債務保証その他一切の取引によつて取得する債権につき、被告らに対し訴を提起するときは、訴外金庫の所在地を管轄する裁判所をもつて管轄裁判所とする旨の合意がなされていること、本件第二の請求により原告が代位権を主張して請求している債権は訴外金庫の右取引約定による手形貸付に基づくものであること、及び訴外金庫の所在地は栃木県鹿沼市であることが認められる。そして、右合意管轄裁判所は義務履行地たる訴外金庫の本店営業所の所在地(栃木県鹿沼市)を管轄する裁判所として、本来法定管轄権のある裁判所を合意で指定しているものであるから、その他の法定管轄裁判所を除外して専属的に管轄裁判所を合意したものであると認められるのが相当である。

ところで、合意管轄は合意当事者及びその一般承継人を除く第三者を拘束しないのが原則ではあるが、合意によつて生じる効果は訴訟法上のものとはいえ、法定管轄が合意で変えられるということを実体法的にみると、権利行使の条件としてその権利関係に付着した実体的利害が変更されたといえるから、訴訟物たる権利関係が当事者間でその実体的内容を自由に定めうる性質のものである場合には、合意の効果もその内容変更の一場合とみることができるので、当該権利関係の特定承継人は、既に変更された権利関係を承継したものとして、当事者のなした合意に拘束されると解すべきを相当とする。

これを本件についてみるに、第二の請求にかかる訴訟物たる権利関係は、訴外金庫の被告中津組との間における手形貸付による金銭消費貸借契約関係及びその他の被告らとの間における連帯保証契約関係であり、当事者間で実体的内容を自由に定めうる性質のものであるから、訴外金庫と被告らとの間でなされた前記専属的管轄の合意は、その特定承継人である原告をも拘束すると解さなければならない。

そうすると、第二の請求については、訴外金庫の前記所在地を管轄する宇都宮地方裁判所をもつて専属的合意管轄裁判所と認めることができる。

前記のとおり、当裁判所は、原告の被告中津組及び被告中津千吉に対する第一の請求につき法定管轄権を有するところ、民事訴訟法二一条の併合管轄は、法定の専属的管轄の場合と異り、専属的合意管轄の定めをしている請求についても認められると解するを相当とするので、同被告両名の関係においては、同条により第二の請求についても当裁判所に併合管轄権が認められると解される。そして、同条は必ずしも主観的併合の場合に適用を否定するものではなく、訴訟の目的たる権利又は義務が同法五九条前段の関係にあるときは、適用を肯定してよいというべきところ、本件の場合、被告中津亨司及び被告松山一重の関係においては、被告中津組及び被告中津千吉に対する第一の請求との間には同条後段の関係が存在するに過ぎず、右主観的併合要件があるとは認め難いが、同被告両名に対する第二の請求と被告中津亨司及び被告松山一重に対する第二の請求とは、主観的併合として訴訟の目的たる権利又は義務が同条前段の関係にあり、而も同法二一条は一つの請求につき同条による管轄が認められる場合にも適用があり、同請求と併合された他の請求につき更に併合管轄を生ずると解しても、これを不当とすべきいわれはない。したがつて、第二の請求につき、被告中津亨司及び松山一重に対する関係においても、結局当裁判所に併合管轄権が認められるといわなければならない。

以上、第二の請求についても被告らの管轄違いの抗弁はいずれも理由がない。

三しかしながら、一件記録によれば以下の事実が認められる。

1 本件は昭和四七年六月一日当裁判所に提起され、同年一二月二日第三回口頭弁論期日に被告らから管轄違いの抗弁が出されたのみで、当事者双方の希望により東京高等裁判所係属の別件関連事件の進行まちを理由に次回期日追つて指定のまま、以来昭和五五年六月二三日の職権による期日指定があるまでそのまま放置され、同期日においても当事者双方不出頭、原告訴訟代理人より期日変更の申立がなされている。その間、当裁判所の再三にわたる電話、文書による問合せに対しても、当事者からは和解進行中などのほか格別の解答もなされていない。

2 本件の被告らは栃木県内に所在又は在住し、その訴訟代理人らもまた栃木県弁護士会所属弁護士が主であり、その他の訴訟関係者(証人等)も殆どが栃木県宇都宮市内又は鹿沼市に在住している。

3 別件関連事件が東京高等裁判所に係属中である。

4 前記第二の請求については、証拠たるべき書証類の多くは鹿沼市所在の訴外鹿沼相互信用金庫が所持保管している。

5 被告らは本件につき管轄違いの抗弁を提出し、宇都宮地方裁判所に移送すべき旨申立をしたまま放置しているので、同裁判所に移送すれば十分に訴訟の追行をすることが予測される。

四以上によれば、これ以上訴訟の遅延を看過するのは相当でなく、訴訟の著しい遅滞を避くるには本件を宇都宮地方裁判所に移送するのが相当であると認められる。

五よつて、当裁判所は職権をもつて、民事訴訟法三一条を適用して、本件を被告らの普通裁判籍所在地を管轄する宇都宮地方裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(三井喜彦 古川博 原村憲司)

別紙請求の趣旨

一 被告株式会社中津組及び被告中津千吉は、原告に対し、各自金九一一二万七八二七円及びこれに対する昭和四二年一一月一八日以降支払済みまで日歩八銭二厘の割合による金員を支払え。

二 被告らは、原告に対し、各自金一一九七万二五六〇円及びこれに対する昭和四四年一二月三日以降支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

請求の原因〈省略〉

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